管理人さん
12-17

とある下宿の若い管理人さん
ドジだけど一生懸命で
ドジだけど精一杯で
ドジだけど・・・
そんな管理人さんとのハァトフルなお話


基本的にコメントは投稿時の本文です。

12
…好きです…
シャワーの音に混じって自分の言葉が耳に入ってくる
……大好きなんですっ…
面と向かって言えない言葉。
あの人はいつも優しく笑ってくれて
だけど私は…ダメな、名前だけの管理人で。
今の関係が壊れてしまったら…
そう思うと踏み出すことができない。
「今のままでいいの…  今のままで…」
自分に言い聞かせるようにつぶやいた。

13
管理人さんが慌ただしく出かける準備をしている。
俺の出勤よりも早いので今日は俺が見送る形だ。
「明日の夜までには戻れると思います。
 戸締まりと火の元にだけ気を付けて下さいね。
 はじめてのおるすばんなんですから」
管理人さんはいたずらっぽく笑う。
「それと、2階の一番奧の開かずの間にはくれぐれも…」
「…そこは俺の部屋です」
たわいのない冗談に二人で顔を見合わせて笑った。
「…では、行って来ます」

14
下宿に帰ると鍵が開いていた。
どうやら管理人さんはもう戻っているようだ。
「ただいまー」
そう言って玄関を開けると、見慣れない少女と目が合った。
「あ、えーと …はじめましてっ!」
少女は好美(すくみ)ちゃんというらしい。利発そうな子だ。
一通り挨拶を済ませてから切り出した。
「ところで、管理人さんは…?」
「それが…ちょっと落ち込んでまして。
 奥の部屋でいじけてるんで、慰めてあげてください…」

15
リビングに行くと管理人さんがテーブルに突っ伏していた。
「あ…おかえりなさい…」
「…何かあったんですか?」
「ヒント。 …新幹線…お土産」
「察しました」
何だ、そんな事か。 …でもそれだけじゃない気もするなぁ。
「…あと、今日から下宿人が増えますー」
「もぉー!そこは『家族が増えるのよ』ってお腹をさするのーって教えたのにー」
いつの間にか俺の横に来たすくみちゃんがむくれていた。
「先に玄関で会ってるんだからそれは効かないぞ」
「ぶーっ」
そのやりとりを聞いて管理人さんはまたため息をついた。

16
「…だから、アタシとお姉ちゃんは従姉妹なのよ」
「ふーん」
すくみちゃんの荷物を運びながらそんな話をしていた。
生活感の無かった空き部屋がどんどん活き活きとしてくる。
さすがに女の子の部屋だ。大きなぬいぐるみと白いカラーボックス。
それとノートパソコンが3台。   えっ?
「ホントはプリンタとスキャナーも持って来たかったけど、
 そこら辺はお姉ちゃんに共用させてもらうとして。あとは資料用のDV…」
「すーくーみーちゃーん、ちょーっと休憩しましょうかー?」
管理人さんはすくみちゃんを後から抱きしめた。
(別にパソコン持ってるのなんて隠す事ないのに…)

17
管理人さんと夕食後のひととき。
お茶とカステラでまったりタイム。
すくみちゃんは入浴中だ。
「…気になりますか?あの子の事」
管理人さんが切り出した
「ご両親が海外に行っている間、ウチで預かる事にしたんです。
 身内事でご迷惑をかけるかも知れませんが、よろしくお願いします」
「気にしないで下さい。妹ができたみたいで楽しいですよ」
管理人さんの笑顔が少しだけ寂しそうに見えた。
「あ”、カステラの皮が…」
…やっぱりいつもの管理人さんだ。


もj